ここまでして占いをするんだ・・と、感心した話
このお寺のお坊さんも、ちょっと忘れられない非常にユニークなお坊さんでした。
7年ほど前の話ですが、友人からとても良く当たるお寺の住職さんがいて、霊視占いをしてくれると噂を耳にしました。早速、その人から電話番号を聞いて一人で訪ねていくことにしました。
当時、特に悩み事もなかったのですが暇でしたし、霊視だということに興味がわきましたので、電話予約をした後、軽い気持ちでお寺に向かいました。
お寺の場所はすぐにわかったのですが、古ぼけて手入れをしていないお寺を見た時に、ちょっとイヤな予感がかすめたのを覚えています。
「こんにちは。電話したものです」
「はい、いらっしゃい」
一人のこじんまりとした、年のころ70歳ぐらいのおばあさんがのっそりと出てきて、
「どうぞお上りください」
と言って境内の中に通してくれた。
部屋の中には仏像が祭られており、厳かな雰囲気を醸し出されている。
重厚な机の前で、正座をして待っていると、おばあさんがお茶を持ってきてくれた。
「今、来ますので」
しばらくすると、すーっと襖があいて住職が入ってきた。
丹精な顔立ちの年の頃80歳以上と推測される、老人であった。
白く長いひげを持ったそのお坊さんは、するどい眼光で私を見つめている。どことなく威厳がある老人だ。
鼻すじが通っていて目は大きく、若いときはちょっとイイ男だったろうな、と私は推測した。
しかし、良く見ると歩き方がおかしい。歩くというよりも、そのお婆さんが住職をゆっくりと、動かしているのだ。
住職はつま先立ちしていて、両足を曲げてぴったりとつけている。
よくよく観察すると、それをお婆さんが前から、ヨイショヨイショと住職を滑らせているのだ。
どうやら、住職はかなりの高齢で体の自由が効かない状態であるらしい。
事態は飲み込めたが、そんな状態で鑑定できるのか。何かあったらどうしようと、私はとても心配になった。
机の前に座るのに、20分ぐらいかかった。
お婆さんは要領よく、住職を背もたれに座らせて、両側の腰をクッションで挟んで、三方をぴったり固定。
そして、私に「よろしくね」と、目配せしたかと思うと、申し訳なさそうに、ささっと襖を閉めてどこかに行ってしまった。
住職と二人きりになった私は、住職の体を心配しながらもさっそく占ってもらおうと思い、差し出された紙に、生年月日と名前を書いた。
住職の目がキラリと光った。
眼光鋭く私を見ながら
「あなた、武士、武士」
と、繰り返す。
「え?何、なんでしょうか。」
「あなたには武士・・・が・・・ついている」
そして、もう疲れました、と言った感じでガクリと、頭を下げた。
ああ、この住職は霊感で人を見るのだ。
お坊さんだし、やはり厳しい修行をしたのかな・・などと感心した。
でも、武士がついていると言われても、それが守護霊なのか何なのか、説明してもらわないと心配でしょうがないという問題がででくる。
詳しく聞きたくていろいろ質問したのだが、住職は声を出そうとするのだが、うまくろれつが回らない様子であった。
質問をうける体力がないようで、息遣いもハアハアと荒くなってきてぐったりしている。
これは、ちょっとどうにもならない・・といった感じで、紙と鉛筆を取り出し筆談で話かけてきた。
差し出された用紙を見ると、
「あなた、眉間が暗いですね。でもね、心配はいりませんよ」
と、人が変ったようにすらすらと書いてきた。さらに、
「今の彼氏は緑色が似合う痩せ型の人ですね。
でもね、ちょっと二人は釣り合いが取れないんじゃないかな。それにあなた、相手の家風に染まらないから苦労しますよ」
などということが、書かれている。
うん、これはちょっと鋭いかも。
こちらから何も言わないのに、心を見ぬいているようだ。
これは、相当な霊能力かもしれないと私は息をのんだ。
その時である。
私はあれ、と大変なことに気がついた。
筆談鑑定を受けているうちに、住職の体がだんだん斜めに傾いているではないか。
両方の腰を固定しているクッションがずれてきたのだ。ゆっくりと横に倒れ始めて、しまいには、机に隠れるぐらいに横に倒れてしまった。
そして、手くばせで、元に戻せと言っている。
これは大変だと思い奥の間にいるお婆さんを呼ぼうと思い
「すみません~。あのー住職が大変です」
大きな声で何度もお婆さんを呼んだが、全然返事もない。
住職が鑑定している間にどこかに出かけてしまったのだ。この寺には住職と私の二人きり。
不安にかられた私は仕方がないので、席を立って住職の後側に回り、背中をかかえて体を直角に立てなおした。
「いやはや。どうもありがとう。助かります。」
紙に、さらさらとお礼を書いた。
直角に体制を立て直してもやはり、体が苦しいらしい。
口からはよだれが垂れはじめていて、ひぃひぃ言いながらも律儀に筆跡鑑定を続けようとする。倒れないように左右にクッションを当ててバランスをとったのだが、当て方が悪かったらしく、ユラユラとどうも不安定である。
今度は少しづつ前に倒れてきて、机に顔を伏せてウンウンと言っている。
こちらは気がきではない。
なんだか、帰りたくなった。
続けて住職は、するどい眼光でじっと私を見たあと、
「あなたは、幸せになります。なにも心配いらないみたい」
と、書いてくれた。
「うんうん、そうですか」
私は、一礼して、お礼を五千円札をつつんで机の上に置き、早々に
「今日はどうもありがとうございました」
と、席を立った。
住職は、とても満足そうにニコリと笑ってくれたのが印象的であった。
帰り道、回想をめぐらせながら車を走らせて帰ってきたのであるが、住職は確かにすごい霊感の持ち主である可能性がある。
あの射抜かれるような眼光の鋭さ、意思の強そうな高潔な性質であろうと推測される。しかし、さすがにもう少し若い時に見てもらいたかったと思った。
あの体になってまで、占いの鑑定をうけるとは。
きっと、人を救う気持ちとか使命感が強いのかもしれない。
いやいや、もしかして生活力が旺盛で・・・。
3年ほど前に風の噂で聞いた話では、大往生したとか。合掌。
あの独特の雰囲気・・・今思い出しても現実感がなく、夢の中にいたような気分である。
不思議なことだが、友人が会った時の住職は、姓名判断などもしてくれて、ちゃんとしていたという。
それは一体、どういうことだろう。
私が行く前あたりから急に体調を崩してしまったのだろうか。薄暗く人気のない、山奥のお寺。
こちらは女一人。
ぶんぶく茶釜という話があるけど、あれは上州発祥の話だそうだ。。
まさか化かされたんじゃないだろうな・・・・など、感慨深く思い返している。