夢占いの歴史
夢占い(オニロマンシー)は、人類史上、一番古くからある占いです。 世界的にのあらゆる文明の人々が、夢占いの方法を知っています。
ギリシア最古の文学作品である「イリアス」(前八世紀)は、夢は最高神ゼウスに由来していて、夢を解釈するための「夢判断師」が実在したことを伝えています。
聖書には、預言者達の予兆の夢に関する逸話が沢山あって、なかでも、ヨセフとダニエルの夢想は有名です。
紀元前380年頃のギリシアでは、夢判断を「神からの神託」として扱うのか「心理学的な現象」として扱うのかで、意見が二つにわれていたようです。
ユングとフロイト
20世紀初頭に、人の潜在意識に注目する精神科医があらわれました。1人は、オーストラリアの精神科医フロイト。1人は、フロイトの弟子さん。スイスの心理学者、カール・ユング。フロイト氏は、夢を通して人々のこころの病、欲望の抑圧や、無意識の世界を探ろうとしました。
ゆめは
「過去の満たされなかった願望が形を変えて実現したもの」
と考え、本人と性的な関係を重視して分析にあたり、こころを病んだ患者さん達に、かなりの成果をあげる事ができました。
フロイト式の夢診断は、現在も夢診断の原型です。
評判を聞きけつけて、フロイトのもとに、たくさんの弟子達が集まってきました。
その中の一人、スイスの心理学者、カールユングは、フロイトを師と仰いでいましたが、次第にフロイトとは異なる意見を持つようになります。
ユングは欲望の抑圧だけが、夢にあらわれるのではなく「夢は現在その人がかかえている心理的問題」を示しながらも「無限の可能性にみちたもの」なのではないか、と思うようになりました。
ユングは易経や占星術にも親しんだ精神科医として有名です。
共時性=シンクロニシティ「奇妙な偶然の一致」を発見し、研究した精神科医です。
夢には、人間を成長させたり、気づきがあったり、危機を乗り越えていく
「高次元的」なアドバイスが含まれていると、主張しはじめたのです。
結果、ユングはフロイトと袂を分かち、独自の心理学を打ち立てるにいたりました。
「夢分析」から、「夢判断」へ。
そして、高次の導きを含む「夢占い」へと変化をとげました。
ユング氏のこと
ところで、ユング氏は不思議な人です。
フロイトと決別し、不思議な研究をしているユングを世間の人は変人とみなします。簡単には認めてもらえず不遇の時期を長く過ごしました。
研究が深まるにつれて、良く白昼夢をみるようになりました。その中で、ユング氏の自身の「分身」のひとつである「老賢者」(次ページ参考)が、老人の姿をして、ユングの目の前に現れては、アドバイスをするようになりました。
その老賢者を、ユングは 「フィレモンさん」と、呼び、様々なアドバイスと、予言を受けたというのです。
フィレモンは、庭をゆっくりと歩きユングに言いました。
「おまえが考え出した理念や思想は、おまえが創り出したものではなく、はじめからこの世にあったものですよ」
ユング氏は、その言葉を聞いて、自分の心理学理論がでっちあげではなく、真実なのだ!と、確信を持つ事ができたのだそうです。
夢への見解
ユング氏は夢について「人間性の向上をうながし」「困った事にたいしてヒント」
を、出して助けてくれるものだと定義づけました。
また、人の無意識には、予知能力があるのではないか、という風に考え、夢からのメッセージを現実に生かしたのです。
そういう考え方は、当時は受け入れられませんでした。
ユングはある患者さんを治療している時に夢を見ました。
『丘の上に治療中の彼女がいて、ユングがその人を高く見上げている』 と、いう夢です。
ユングはその時に、知らず知らずに自分は彼女を患者だと思って、見下している事に気がつき、対等の立場にたって、治療が必要な事を悟りました。
彼の分析は、相談に来た人達に、劇的な効果をもたらしはじめます。
夢の記録を聞いて、相談者に「自由な連想」をしてもらい、質問を繰り返しながら、じっくりと原因をさぐっていきます。
絡まった糸がほどけるように、患者達の病気が治っていきました。
ユング氏の夢判断
『病院で、ひとりの患者が病室の窓から外を見上げて医者にいいました。「太陽を見てごらんなさい。太陽からしっぽがさがっているのが見えませんか?あのしっぽが動くのが風のもとなんですよ」担当の医者は、患者の言葉をその場ではまったく取り合わなかったのですが、ユングのもとに報告だけはされました。
そのとき、ユングはたまたま、ミトラス教という宗教の本を読んでいるところでしたが、このミトラス教の儀礼のなかに、参加者が太陽を見るようにいわれるという話が出て いるではありませんか。
太陽はしっぽがあって、そのしっぽが、右側に揺れるときには、東風が、左側に揺れるときには西側に吹くだろうという記述があるのです。
この本は、ギリシャ語で書かれてあり、患者がこの話を知るはずもありません。
こうした偶然の一致こそをユングは「シンクロニシティ」と呼び、着目して、もっと事例を集めて研究すべきだと考えました。
また、別のユングの体験に、こんなエピソードもあります。
ユングが見ていた患者が、あるとき「かぶと虫」の夢をみたといいます。かぶと虫はエジプトではスカラベと呼ばれ「太陽の化身」つまり、神様のお使いであり、自我の象徴とされています。
その患者は、ちょうど病状が好転してきていたので、これは「治癒」を意味する夢だと、ユングは喜びました。
するとそのとき、なんと窓から一匹の「カブトムシ」が、飛び込んできたではありませんか。季節は冬。普通ならカブトムシなどいるはずもないのに・・