HUNK & Lupo
2012.03.04.
1998年
戦闘服の首元を寛げながら廊下を進むハンクの前に、一人の女が立ちふさがった。停止を要求する無言の圧力を感じ、彼はその歩みを止める。
「あんたがハンク?」
その女は非常に不躾な視線でハンクを眺め回した。それこそ上から下へ、下から上へ、何往復もだ。まるで品定めをしているかのようだ。
「ウワサは聞いてる。あんた腕は良いらしいけど、指揮官としてはカス以下だね。何度ひとりで帰ってきた?」
ハンクは微動だにせず、温度のない――冷たいのではなく、正しく温度がない――視線で女を見る。ガラスのような瞳からはどのような感情も読み取れない。
ハンクがなにも答えないのをどう受け止めたのか。女は吐き捨てるように鼻を鳴らす。
「ふん、数えたことがないのか、それとも数え切れないほどなのかい? あんた本当、最低だね。いっそ軽蔑するよ。あたしはあんたみたいな奴、大嫌いだ」
マイナス方面の感情がぶつけられても、ハンクの表情は揺らがない。ただ、まばたきを一度しただけだった。
「あんたみたいな奴、大嫌いだよ」
お前とは違う。お前のように部下を見殺しにはしない。
そんな意を込め、女はもう一度ゆっくりと同じことを言う。ただ、その意図がハンクに伝わったかどうかは分からない。
「あたしは“ルポ”。覚えときな、ウルフパックのリーダーだよ。いつかあんたを狩ってやる」
ハンク同様に温かみのない、しかし悪意のこもる眼差しで、ルポはまるで噛み付くかのように歯を見せて笑う。そして足音高く歩き去った。
ルポが廊下の角を曲がりその姿が見えなくなってから、ハンクは息を吐いた。
部下の死。
全滅。
それがなんだというのか。
明日は我が身と、意識しない日はない。
しかし自分たちに求められているのは、課せられた任務の完遂。そのためにはなりふり構う余裕はないし、何人が犠牲になろうと雇い主は気にもしないだろう。困難に犠牲は付きものだ。犠牲は少ない方がいいが、必要なこととして甘受せねばならぬ時もある。受け入れられぬなら、早々に転職した方が身のためだ。
- Fin -
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