Rising Sun

Count Request 4444

2002.04.11.

 19:50。
 夜もまだ浅い時間であるせいか、大通りから二本裏に入った場所にあるその店【Bird's Bar】は人気(ひとけ)が無かった。表のネオンサインに電気は入っていない。壊れているのか、それとも単に電気を通さない事を良しとしているのか。いずれにしてもひどく目立たないバーだった。ドアに鎖で掛けられた『OPEN』のプレートが無かったら、そこが目当ての場所であることに彼は永遠に気付く事はなかったろう。
 約束した時間から、遅れること20分。
 彼はようやく――幾度か気付かずにバーの前を通り過ぎた後で――そのドアをくぐる。ドアに付いた小さなカウベルが揺れて、店の主人に新たな客が来た事を知らせた。
 入ってすぐの右手にはビリヤード台といくつかの誰もいないテーブル席がある。店のなかは、外見とは裏腹に随分こざっぱりしていた。但し表同様明かりが少なく、ひどく暗い。しかし陰気ではない。左手奥にはカウンター席。その場所だけ妙に明るくて、浮きあがって見えた。
 今夜の客は、彼で三人目のようだ。
 入り口から一番遠い場所に老人が一人。インテリアと言っても差し支えが無いほど、この店と同化しているような印象を受ける。
 そしてそのカウンター席に居るいま一人が、今夜ここで20分前に落ち合おうと約束した相手だ。彼が今まで見た中で、どんな意味に於いても最も美しいと思った女性(ヒト)。
 ジル・バレンタイン。
 彼――カルロス・オリヴェイラ――が今ここに生きて立って居られるのは、全て彼女のお陰だ。また逆を言えば、彼女がそこに生きて居られるのも、彼が居ればこそ。ほんの何十時間か前までは、二人は文字通り消えてしまったあの街に居たのに。なのに今はこんな場所で落ち合っている。あの街での出来事も相当現実離れしていたが、どちらかと言えば、今この場所にいることの方がより現実離れしている感じがする。
 彼の到着に気付いたジルは、ゆったりと左手を振って彼を招いた。それを見たカルロスは見えない力に引っ張られるように動き、彼女の右隣のスツールに腰を据える。そして何をするよりもまず彼は謝罪する。
「悪い、随分遅れちまったな」
「道に迷った?」
 空になったグラスの中で角の取れた氷を遊ばせながら、特に責めるでもなく笑いを含んだ声でジルは聞き返す。まるで遅れてくる事を知っていたかの様でもある。
「場所がよく分からなかったんだ」
 彼女から視線を逸らして、彼は正直に言った。
「最初は皆そうなのよ。あなたは早く着いた方だわ。ねぇマスター今回は私の勝ちね」
 カウンターの中でグラスを磨いていたマスターは、話を振られて少し肩を竦ませて見せた。何らかの賭けが二人の間で行われていた様だが、一体なんだったのだろう。それが知りたくてカルロスはジルに咎める様な視線を送る。
「あぁ、あなたが約束した時間から30分以内に現れるかっていうのをね。いつもやるちょっとした暇つぶし」
 ここで待ち合わせるのが初めてだった場合、それほど難しい場所にあるわけではないのに、なぜか時間どおりに現れた相手はいない。誰しもが必ず遅れてやってくる。そこでいつの頃からか彼女はマスターと最初の一杯を賭けるようになった。
 その説明に、彼はただ軽く頷いただけで何も言わなかった。賭けの対象にされた事に不満がない訳ではないが、それは約束した時間にここにいなかった自分が悪いのだ。文句を言えた義理ではない。
 彼は自分用に酒を一杯頼み、手を伸ばして小さな灰皿を引き寄せた。ポケットをまさぐって取り出したのは半分ほど空になった、少し潰れた煙草のパック。軽く揺すって一本出し、咥えて引き抜く。それから慣れた手つきで煙草に火をかけた。ジルはその一連の滑らかな動きを見つめる。やがてその視線は、ゆっくりと吐き出される紫煙を追いかけていた。ほんの束の間迷った後、ためらいがちにジルは声をかける。
「ワリ、煙草嫌だよな。消すわ」
「違うの。……私にも一本くれる?」
 彼は黙って煙草を差し出した。ジルは一本抜き取ると、それを柔らかな唇に添える。お世辞にも慣れているとはいえない手つき。ライターのオイルが燃える匂いと煙草の香りが一瞬混じって、鼻をつく。同じ煙草に同じライターで火をつけたのに、彼女の煙草の方がかぐわしい香りがするのは……どうしてなのだろう。
「意外だな。あんたが煙草やるなんて」
 最初の一口を吸うのを待って、彼は口を開く。
「普段は吸わないのよ。欲しくなるなんて年に何回もないわ」
「なら今日の俺はツイてるって訳だ」
 煙草をふかす彼女を茶化すようにカルロスはにやりと笑って見せた。
「そうかもね」
 灰皿に灰を落としながら覇気の無い声で彼女は応じる。それきり何も言わず、手にした煙草から立ち上る薄い紫煙を物憂げに見つめていた。およそ彼女らしくないその様子。少なくとも、こんなのは彼が思い描くジルではない。はっきりとはしないがなにか不安のような、ひどく後ろ向きな感情を抱えている様だ。
 持って生まれたものなのか、育った環境がその能力を発達させたのかは定かではないが、彼は感情や表情の機微には敏感な方だ。あえて何も問いはしなかったが、カルロスは漠然とそれを感じ取っていた。
 空気がひどく重い。
「何冴えない顔してんだよ。せっかくの美人が台無しだぜ?」
 何とかこの重みを消せないものかと思って、わざと軽口を叩いてみる。しかし空気は変わらない。彼女が返した反応は、感情の無い一瞥。ただそれだけ。せめて何らかの――たとえそれが非難でもいい――感情の欠片でも見えれば、何とか出来たのに。
 彼は仕方無しに燃えて短くなった煙草を揉み消す。困ったように眉をひそめて、そっと息を吐いた。この先は彼女が何か行動を起こすまで待つしかなさそうだ。
 何となく手持ちぶさたになった彼は、カウンターの中で自分たちからは少し離れた場所でひっそりと控えるマスターを見やった。隅に静かに座る老人同様、長身・痩躯の彼もこの店と完全に同化していた。彼の店なのだから当たり前なのかもしれないが、それでもここ以外に居る彼の姿など容易に想像できるものではない。
「マスター、店の名前の由来を聞いても?」
 ただ、気になったから聞いてみた。
 それまでずっと置物のようだった老人が、マスターに代わって重く口を開く。
「人は鳥と同じ生き物だ。誰しもがその命果てるまで時間という空を飛び続けている。どんなに頑強な渡り鳥でもその翼を休め、疲れを癒さねば再び飛ぶことは出来ん。どんな鳥にも翼を休める為の止まり木は必要だ。その為にBarはあるんだ」
 この店の名付け親なんだ……片頬で笑い視線だけでカウンターの端に座る老人を指し、マスターは言った。まるで父親を見るかのような、愛情のこもった視線。本当に親子なのかどうかは分からなかったが、そういった視線を向ける相手が居ることが羨ましい。過去を捨てた青年は不意にそう思った。

     * * * * *

 長くなった白い灰が自身の重みを支えられずに皿の中に落ちていく。ジルの指に挟まれた煙草の火は、もうすぐフィルターにまで届きそうだった。ジルは紫煙を見ていたが、瞳から入った情報は脳まで届いていないようだ。あれはもう吸えないだろう。カルロスは彼女の指から煙草を取り上げ、結局最初の一吸いしかされなかったそれを灰皿に押し付けた。
「吸わねぇんなら、消しとけ」
「あぁ、そうね。ありがとう」
 煙草を取り上げられて彼女は我に返る。深く考え込むあまり、煙草の事など完全に意識の外に行ってしまっていた。……隣に彼がいることも。自分から誘ったくせに。なんて非道い女なのかしら。
「なぁ、俺のことまだ信用出来ないのかもしれないけど……何か悩んでることとか考えてることがあるなら話してくれよ。何の解決にもならないだろうけど、一人で抱え込んでるよりはずっといいと思うぜ?」
 のぞき込むようにして彼女を見、微笑んで彼は言う。真摯な眼差しに寂しさがほんの少し混じった、その琥珀色の瞳がジルを捉える。
 何を恐れ、何を迷っていたのか。彼が信用できる人間だということは、そしてもう信用していることなどとうに分かっていたではないか。悩み事は確かにある。そう、それを一人で抱え込んでいても鬱になるだけだ。話してしまえばきっと大した事ではなくなるだろう。
 ただ、しらふのままでは話せそうもない。出来れば酒の力を借りて……。彼女はカルロスの手の下から半分酒の残った細く背の低いグラスを奪うと、彼が止める間もなく一気にあおり飲み干した。強いアルコールが喉を焼く。
 胃が熱い。
 こんな風に酒を飲むのはいつ以来だろう。
「マスター、水くれよ。ジル、そんな馬鹿な飲み方するな」
 慌ててカルロスは彼女をたしなめ、グラスを水の入ったものに持ち替えさせる。どれ程彼女が酒に強いのか知らないが、強い酒をこんな風に飲むなんて。いくら何でも馬鹿げている。一体何を考えているんだ。
「大丈夫、大丈夫よ」
 早くも赤くなり始めた顔で彼女は言う。目つきはしっかりしているので、本人の言うとおりまぁ大丈夫なのだろう。だが、もう一度同じ事をしないとは限らない。注意していなければ。
 しかしカルロスの心配をよそに、彼女は更に酒を追加する。今のと同じものを、と。グラスに酒を注いでから、マスターの手が止まる。ジルとは昨日今日始まった付き合いではないから、マスターは彼女の限界量を知っている。普段なら黙っていつも通りに出してやっても良かった。しかし流石に今回ばかりは、要求通りに酒を渡す事をためらった。そのためらいが、ジルの連れの男に視線で尋ねさせる。……いいのか?
 その視線に気付いたカルロスは、逡巡した後わずかに首を横に振った。飲ませる訳にはいかない。それは彼女の為でもあるし、カルロス自身の為でもある。彼は改めてオーダーし直す。
「彼女のはサンライズにしてくれ。それは俺が貰う」
 マスターは心持ち安堵したような表情で軽く頷いて、了解の意を返した。そして手早く作り二人の前に差し出す。

     * * * * *

 自分の要求と違うものが出された事に対して、彼女は二人の男に非難めいた視線をぶつけた。マスターはその視線を受け流し素知らぬ振りを決め込む。しかしカルロスはマスターの様に受け流すことが出来ず、そしてジルもそれを許さなかったので真正面から対することになる。
 こんな時、普段ならとてもキツイはずの彼女の眼差しは、さっきの酒のせいで潤み始めていた。そんな目で非難されようが睨まれようが、全く効果はない。むしろ……別の効果の方が甚大だった。
「おいおい、そんなに色っぽい目で見てくれるな」
 カルロスは困ったような笑顔を浮かべて言う。これが違う状況・場所で違う女だったら、もしくは違う出会い方をしていたならば間違いなく誘われていると思うところだ。しかし残念なことに、カルロスは彼女がそういう女で無いことも、これがそういう視線では無いことも知っていた。
 ジルはもう一度精一杯睨んでから、大きく溜息をついて視線を逸らした。なんだ、残念。もうちょっとあのままでも良かったのにな。彼女の性格を考えれば、そうそう見られる目つきでは無さそうだったのに。
「ねぇ、時々訳も無く不安になることって、ない?」
 少しふてくされた様子で彼女は唐突に切り出す。話の流れを見極めようと、カルロスは黙ってその言葉の先を待った。
「訳も無くというか……なんとなく今自分がやっている事とか、やろうとしている事は正しい事なんだろうかって考えると、先が全く見えなくなる時ってないかしら。まるで暗闇の中で崖の淵に立っているような気分」
 彼女は自分用に出された、足の長いグラスを眺めた。オレンジで満たされたグラスの底に、僅かに赤いシロップが沈んでいる。彼はこれをなんと言って注文していたろうか。
「この調査を始めた時には……貴方と私が巻き込まれたあの事だけど――こんなに事が大きくて根が深いなんて思いもしなかった。私も仲間も……もっと規模は小さいと、簡単に片付くものだと思っていたのね。
 あいつ等の事を知れば知るほど輪郭がぼやけていく。時々不安になるの。あの腐った闇を白日の下に引きずり出すことなんか出来るのかって。本当はそんな事無理なんじゃないかって」
 硬い樫で出来たカウンターの上に両肘を乗せて、彼女は両腕を抱く。カルロスはずっとその横顔を眺めていた。不安に沈むその表情は、雨が降っていたあの嫌な夜を思い出させる。今にも壊れてしまいそうだ。忍び寄る実体のない恐怖や不安は、それ自体人を殺す原因には成り得ない。しかし性格やその後の人生を変える要因には成りうるのだ。
 つまり、そういうことか。
 ――俺はもう一度、取り戻せるだろうか?
 彼はまるで指抜きのような細く小さいグラスに口を付け、中身を少し口に含んだ。薄く黄味掛かった液体が舌を焼く。火の酒。そのふたつ名に相応しい味がする。慣れた、懐かしい味。これほど上等なものではなかったが、これと同じ物を、今はもう死んでしまった仲間たちと良く回し飲みしていた。今の『俺』になる前の、もはや遠い、消した筈の過去。
 過去の記憶と酒を一緒にして、ゆっくりと飲み下す。それから口を開いた。
「こうなった事に、つまりその調査だけど。始めた事後悔してるのか?」
 問われてジルは少しの間を置いてから、顔も視線も上げずに首を横に振った。調査を始めた事自体には後悔などない。しかし自分の人生があんな体験を伴うものになったことについては、多少の悔いがなくもないのだ。
 カルロスは視線を手元の液体に移す。――つまんねぇ話するけど、勘弁してな。そう前置きしてから淡々と話し始めた。
「今までの俺ってさ、何をするにもずっと誰かに命令されてた。ていのいい操り人形か、ゲームの駒みたいなもんだな。俺の代わりなんていくらでも居たし、その命令を受けるのは別段『俺』である必要はなかったんだろう。
 そんでさ。たまには自分で何かを決めなきゃいけないこともあったかもしれないけど、それは右か左かって位単純な事で……沢山ある可能性や道の中からひとつを選ぶようなものじゃなかったんだ。
 極端に聞こえるかもしれないけど、多分自分で本当にやりたいようにやって選んだ事なんて、いくつも無いんじゃないかな」
 この『やりたいようにやった数少ないこと』の中に、彼らが共通して持っているあの悪夢のような経験のさなかで、彼が彼女の為にやった事が含まれている。そう、あれこそ正に誰の命令でもなく彼自身の意思で、行動したことに他ならない。
「だからこう言うのも変なんだけど……本当のこと言うと、こうやって自由の身になった今、自分の前に開けている道があんまりにも多くて一つを選ぶのに尻込みしてるよ。
 でも俺、考えたりとか悩んだりとか……得意じゃないからさ。直感っていうか、これからの事は、その時一番やりたいことで決めようと思ってる。多分ソレが、どんな結果になってもきっと後悔しないと思うんだ」
 ジルは思いがけず語られる彼の言葉に耳を傾け、断片的に伺える彼の過去に思いを馳せた。不意に今の彼を形造ったもの、事、その全てを知りたいという欲求に駆られる。この人は今まで一体どんな人生を、生活を送ってきたのだろうか。
 カルロスは再びグラスに口を付け、それから言葉を続ける。
「嫌な言い方かもしれない。でも俺はジルが羨ましい。あんたは俺と違って、沢山ある道や可能性の中から何もかも自分で決めて、選んでこの場所に来た筈だ。なのに今までの決定を後悔してるとか、不安だとか……贅沢だと思わねぇか?」
 言葉の持つ意味とは裏腹に、とても優しく穏やかな声。
 彼女に言った事とは矛盾するが、彼も少ない選択肢――時にはひとつしか無かった事もあったが――の中から常に自身の進む道を決めてきた。選び方によっては、今とは全く別の人生を歩く事も出来たのかもしれない。振り返ってみれば、もっと違う道や方法があったのかも知れないと思う場面も、片手では足りない。だけど今此処に『自分』が居る事に、欠片ほどの後悔も無い。むしろこの場所に辿り着けた自分の選択を誉めてやりたい位だ。
 彼女はようやく視線を上げ、彼を見やる。その言葉は確かにジルに向けられたものだったが、何故だろう。同時に彼が自身に言い聞かせている様にも感じたのは。声と同じくらい穏やかで優しい眼差しを受け止めて、ジルはさらに問いかける。
「なら、貴方はなにも後悔してない?」
「全く無いと言ったら、嘘になるだろうな。でも――」
 ――あんたに会えたから、いいんだ。そう言いかけて口をつぐむ。そして視線を彼女から逸らした。こんなの、今言うべきことじゃない。
「でも?」
 そうと知るはずもなく、言葉の先を促すのはジル。言いかけて止めるなんて。先が気になって気持ちが悪い。
 どうして彼女はこんなに耳聡いのだろう。聞き流してくれていれば良かったのに。失敗だった。こうなったら何かを言わねばならないだろう。観念したかの様に目を閉じ、カルロスは息を吸い込む。
「……なぁジル。明けない夜なんてないんだぜ?」
 にっと笑って、いたずらっぽくウィンクをしてみせる。あまりにも似合い過ぎていて、今のこの雰囲気や場所には場違いにすら感じてしまう。
「どういう意味よ」
 あまりに唐突なその言葉にジルはついていけず、一瞬軽いめまいに襲われる。
「今は後悔でも、いつかそうじゃなくなる、帳消しになる日が来るって事さ」
 例えば、今の俺の様に。
 今までしてきた選択の中には正しく無いものもあっただろう。だが少なくとも間違っていなかったと思う。だからこれは誰かの受け売りなどではなく、自分の知っている真実。
 ジルは再びオレンジで満たされた足の長いグラスに視線を落として、彼の言葉をそっと口の中で繰り返す。明けない夜などない。彼の言う様に、この胸で疼く後悔がいつかそうで無くなる日など来るのだろうか?
 夜明け。昇る太陽。
 後悔や不安・絶望といった闇を切り裂いて、私の心に届く力強く熱い光。
「朝が来るまで、やれる限りのことをするしかないのね」
 薄く笑ってそっと溜息をついた。何十時間か前と、何も変わってはいない。場所と状況が違うだけなのか。
 ジルはようやくグラスに手を伸ばし、もう一度じっくりと眺めた。朝焼けの空にも似たオレンジ色の世界。唐突にそのカクテルの名を思い出す。
「サンライズって言ったわね? このお酒。これはそういう意味だったの?」
 グラスの縁に沿って液体を回して一口。
「正確にはその前に『テキーラ』が付くよ」
 二本目の煙草に火をかけながら、どうでも良いような細かい訂正を入れる。それから思い出したかの様に煙草のパックを彼女に差し出して尋ねた。吸うかい? 柔らかく微笑んで彼女は答える。
「ありがとう。でも、要らないわ」
 そんな物に頼らなくても、もう大丈夫。元々吸いたい物でもないし。
 その翳の無い笑顔を見てカルロスも安堵する。それがそのまま顔に出てしまう辺り、彼にカードゲームは向いていないようだ。
 左手に煙草とグラス、右手で頬杖をついて彼は意地の悪い笑顔を浮かべる。そしてその笑顔に相応しい声音でこう言った。
「その酒の意味だけど。その位自分で調べな」
 グラスに半分以上残る酒を先(せん)だってのジルと同じように、一息で飲み干した。
 やがて訪れる朝に。
 乾杯。

     * * * * *

 相当の時間が過ぎた後、グラスの横に数枚の紙幣を置いて二人は揃って席を立った。来た時と同様に、ドアに付いたカウベルが揺れて別れを告げる。いつかまた、二人でこのドアを抜ける夜が訪れるなら。その時は状況も、二人の関係も、随分今とは違っているだろう。
 ドア脇に吊り下げられたランタンの明かりを浴びながら、ジルは今夜どうしても訊いておきたかったことをやっと声に出す。半ば諦めの混じった声。
「貴方はこれからどうするの?」
 問われて彼は空を振り仰いだ。
 ――そんなの、あんたならとっくに分かってくれてると思ってたけどな。
 声にして伝えなければ、考えや想いなど伝わりはしないらしい。
 視線を彼女に戻し、一呼吸置いてから彼は言った。
「あんたの止まり木になりたいと言ったら、迷惑か?」


     * * * * *


 テキーラ・サンライズ。
 それが意味するのは『情熱的な女』。
 ジル。
 あんたに相応しい酒だと思うよ。
 もし、その眼差しを俺に向けてくれるなら。言いかけた言葉の先が何だったのか分かるだろう。俺からは絶対に言わないが。いつの日か気付いてくれる事を願うよ。
 太陽が昇り憂鬱な闇を払うその時まで。願わくばその先も。
 傍に居させて。



- Fin -





アトガキ

 えー、冒頭にある通り、キリ番4444ゲットの粗品でございます。あー、マジホント粗品だよ……。御粗末過ぎて投げ捨ててぇよ(涙) 前半はそこそこハードボイルドに成るように頑張ってましたが、後半ガタガタですね。もーイヤ。所詮エセだ、私はエセ文章書きでしかないんだぁ〜ッ(泣) 何が言いたいのかサッパリ分からないし全然文章まとまってないし、人様の為に書いたもののクセに思いっきり暴走してるし(;;) ダメじゃんよ? 自分……。
 愚痴っててすみません。でもホント今までの様に『寒い』どうのじゃなくてですね……。あまりのヘタレっぷりがイラスト以上に目と精神に痛いんですよ……。レベッカー、頼むよ板前の旦那だけじゃなくて私も助けに来てくれよー(崩壊)

 内容が無いよー(それは相変わらずだ)。
 しかし流石に今回はちゅうを入れる余地はありませんでしたね(爆) まぁさせるつもりもなかったけどさ。そんな雰囲気でもないし。それどころか触れ合ってもいませんぜ。ゲヘゲヘ。たまにはイイよね、そんなんも。前回がアレだっただけに(冷汗) 二作続けたら流石に今度こそ裏行きになりそうだからね。

 結局こんなんかー。って感じです……。リクエストしてくださったもっち様の意向に添うよう必死で頑張ったつもりではあるのですが、結局一番自分が楽しんでただけだったかもしれないよーな、よーなよーなで、本当にカルロス書いてるのって楽しくってもーどーしましょ(笑) やっぱ私にはカルロスしかねぇと思ったね! 砂糖吐きそうな程甘いセリフも、格好良く決めるセリフも、ついでに弱音だって(爆)、何言わせてもちゃんと絵になるもんね。そんなの板前だって遅刻魔だって無理だぜぃ(壊) ……いゃあの、別にクリスやレオンファンに喧嘩売ってる訳じゃ無いッスからね? 私は板前アニキだって好きなんじゃ〜。信じてくれ〜。
 前回言っていた程には長くならなかったですね。やっぱり私の言うことは信用出来ないという好例だ。

 あー、そうそう。作中でただのアイテムのくせにしょっちゅう出てくる酒は『テキーラ』です。このテキーラで一本エッセイモドキも書いたのでよければそっちも読んでやってくださると嬉しいです。コレね。
 最後になりましたが、いつか書きたいと思っていた酒場編。書かざるを得ない状況(オイ)とステキ且つ詳細なネタを提供してくださったもっち様、ありがとう御座いました。
 ではまた次回、別の作品でお目にかかりましょう。