オールバックとショートちゃん
2011.11.24.
前回会ったのはいつだったろうか。
人混みの向こうに垣間見える彼女の姿を眺めながら、考えてみる。電話で話したのは、一昨日のことだった。どうやらおれたちはタイミングの合わない生活をしているようで、電話が通じること自体が珍しい。
彼女は「一日が二十四時間じゃ全然足りない」とよく零している。つまり彼女の仕事量は膨大で、恐らく一人がこなせる量を大きく越えているに違いない。それでも彼女は愚痴ひとつ零さず、健気に、そして真摯に――とは言え、おれは彼女の仕事ぶりを直に見たことなど一度もないから、あくまでも予想に過ぎない――仕事と向き合っているようだ。
恐らく今日は、忙しい仕事を遣り繰りして捻り出した貴重な休日なのに違いない。それをおれにくれると言った彼女の声は、なんと弾んでいたことか。
一分ほども彼女を眺めて、ようやく思い出した。
そうだ。あのときはまだ日差しの鋭い、夏の終わり頃だった。三ヶ月も経てば気温も下がるし、服装も変わる。そういえば服装だけでなく彼女の雰囲気が少し違って見えるのは何故だろう。まるで間違い探しのような見比べを頭の中でやってみて、やっと分かった。
髪が……伸びたんだ。
といっても所詮三ヶ月分だから肩に届く程にはなっていない。以前のボーイッシュな短さから、色気のある長さになってきたというくらいなのだが……。
昔、同僚の誰かが言っていた。女は変わる、と。
本当に、三ヶ月も会わずにいたら別人だと、思った方が良いのだろうか。今日この日があと一ヶ月むこうだったら、もう“お嬢さん”とは呼べなかったかも知れない。
人の波にさらわれそうな彼女が腕時計を見、きょろきょろと周囲を見回している。おれを探しているのは間違いない。だけど、まだだ。まだだよ、レベッカ。約束の時間はまだ先だ。
一体いつまで『お嬢さん』と呼べるのか。
美しい女へと変態を始めた彼女を眺め、新たに見つけた楽しみに頬が緩んだ。
- Fin -