悪魔と呼ばれた男
2015.01.21.
地獄絵図さながらのその光景を見ても、男の表情は揺らがなかった。
それでも、もし注意深く彼を観察する者がいれば、彼の表情がごく僅かながらも変化したことに気付いたかも、しれない。
薄い唇の端に浮かんだ微かな引き攣れにも似たもの、それは笑み。瞳には猛禽類さながらの鋭い光。
それは彼に捧げられた不名誉な二つ名――銀髪の悪魔――そのものだった。
彼は周囲にいる兵士たちとは別種の存在だった。彼の任務は、観察し、あらゆる情報を集め、そして持ち帰ること――。必要があれば彼自身も戦うことになるだろうが、基本的には観察者である。
情報はとにかくどんな些細なもの(事)でも集めることだ。重要度をはかることはしない。優劣を決めるのは買い手の方だから。それに自分ではくだらない、と思う事でも相手にとっては非常に重要だというのも、ままある話だ。
真の目的を隠し、彼は有象無象の兵士と共にロープを伝って地上へと降り立った。
- Fin -