JUNK : 20

変態してゆく人

2011.04.10.

 体中の筋肉という筋肉、骨という骨がきしるように痛む。
 寒い。
 吐き気が止まらない。とは言っても、胃の中に吐き出せるようなものはもう何も残ってはいなくて、出てくるのは酸っぱい胃液ばかりだ。
 こんなに胃液ばかり吐いていたら、その内自分の胃液で内側(なか)から溶けて死んでしまうに違いない。あるいは、内蔵を吐き出してしまうとか。
 ――ああ、もしかしたらその方が幸せなのかも。
 随分前に見た、通りを歩く腐乱死体を思い出しながらぼくは思う。
 あんなものに襲われたり、自分があんな風になったりしてしまうくらいなら、溶けて死んでしまう方がよほどいいのではないだろうか。
 それにしても……。
 こんなにも吐き気がするのに、同時に感じる強烈な空腹感。思い浮かぶのはとびきり厚いステーキを頬張る自分の姿だった。上等なものでなくていい、表面をちょっと炙るくらいの血が滴り落ちそうなレア――いいやいっそ焼かなくてもいいんじゃないか――にかぶりついて……。ああ、なんてうまそうなんだ。
 むず痒い首筋を掻きむしる。痒みが治まったかと思ったら今度は肩が痒くなる。どうなってんだこれ、どんどん痒みが広がっていくみたいじゃないか? 表面じゃなくて、もっと皮膚の内側が、裏側がとてつもなく痒い。
 助けて――だれか、たすけてくれ!



- Fin -





memo

 初出がいつだったか思い出せない……。これも長いこと拍手の中に居座っていましたな。いつもとはちょっと違った方向に行ってみたかった、てのは覚えてる。本当はもっとヤバイ感じにしたかったような気もする。支離滅裂な思考ぐるんぐるんな系で。まー、まだまだその域は無理そうですが。だって私、ゾンビくんたちに対する愛がないもんな(笑)
 いくばくかでも愛がないと、私には書けないわ……。