変態してゆく人
2011.04.10.
体中の筋肉という筋肉、骨という骨がきしるように痛む。
寒い。
吐き気が止まらない。とは言っても、胃の中に吐き出せるようなものはもう何も残ってはいなくて、出てくるのは酸っぱい胃液ばかりだ。
こんなに胃液ばかり吐いていたら、その内自分の胃液で内側(なか)から溶けて死んでしまうに違いない。あるいは、内蔵を吐き出してしまうとか。
――ああ、もしかしたらその方が幸せなのかも。
随分前に見た、通りを歩く腐乱死体を思い出しながらぼくは思う。
あんなものに襲われたり、自分があんな風になったりしてしまうくらいなら、溶けて死んでしまう方がよほどいいのではないだろうか。
それにしても……。
こんなにも吐き気がするのに、同時に感じる強烈な空腹感。思い浮かぶのはとびきり厚いステーキを頬張る自分の姿だった。上等なものでなくていい、表面をちょっと炙るくらいの血が滴り落ちそうなレア――いいやいっそ焼かなくてもいいんじゃないか――にかぶりついて……。ああ、なんてうまそうなんだ。
むず痒い首筋を掻きむしる。痒みが治まったかと思ったら今度は肩が痒くなる。どうなってんだこれ、どんどん痒みが広がっていくみたいじゃないか? 表面じゃなくて、もっと皮膚の内側が、裏側がとてつもなく痒い。
助けて――だれか、たすけてくれ!
- Fin -