Snow Dream
2011.02.14.
空から雪片がひとつ、はらりと降りてくる。
“死神”と呼ばれる男は反射的に手を伸ばし、手のひらでそれを受け止めた。
見上げればそれらしい雲はない。汚れを知らぬ星々が瞬いているばかりだ。
近辺に張り出している大木の枝にもそれらしい物はなく、さて一体どこから雪片は来たのだろう。どこかで舞い上げられた雪が吹き飛ばされて来たのか、いや、だとしても今日は風のない夜だ。それは筋の通らない話だった。
彼は手のひらを返して雪片を落とした。それは音も立てずに着地したが、彼の興味はすでにそこから離れ、別のことへと移っていた。
12月……雪……今日は……
そうと意識せずに彼は溜息を吐く。近頃では訓練と任務に追われ、日付などただの記号と化していた。日付に込められた意味も忘れて久しいのに、それを今唐突に思い出してしまった。
死神は再度空を見上げる。
サンタクロースも戦闘機に護衛されて移動する時代だ。……まぁ、風防も酸素マスクもなしに戦闘機と併走できるような者たちに果たして“護衛”など必要なのか、というのは野暮な疑問かもしれない。
まかり間違っても、トナカイを駆って橇で移動するかの人が自分の所に現れないのは知っている。ただ、もし本当になにかプレゼントをくれると言うのならば、彼にはねだりたいものがひとつだけあった。
甘く熱い紅茶。
それさえあれば、疲弊しきった隊員たちも回収地点まで移動するだけの活力を取り戻せるだろう。
彼は防寒を兼ねたバラクラバ帽を脱ぎ、凍てつく冷気に湿った肌を晒した。そして鋭利な空気を思い切り吸い込み、同じ勢いで吐き出す。
顔の前に現れた吐息の雲の中で、口端を歪めて囁いた。
死神がなんと囁いたのか。
それを知るのはやはり、死神。
その人のみ――
- Fin -