JUNK : 15

interval

2011.10.29.

「ずるい」
 先刻からずっと男――ビリー・コーエン――の手を捏ね回していたレベッカ・チェンバースは、視線も上げずに言った。人の手をためつすがめつして観察した挙げ句の感想としては、なかなかひどい。
 だが、ずるい、と言われた手の持ち主は面白がるような表情で問うた。
「どうして」
「だって」
 可愛らしい唇を子供のように尖らせて――無自覚にそういう表情(こと)をしているのは間違いない。だからいつまで経っても“お嬢さん”と呼ぶのをやめて貰えないのだが、きっとそうとは気付いていないのだろう――彼女は続ける。
「見えないんだもの」
「見えない? ばか言うな、ちゃんと見えてるだろ」
「もちろん見えてる。でもそういうのじゃなくて、イメージの話」
 相変わらず男の手を観察しながらも、彼女は大げさに溜息を吐いた。
「例えば、お年寄りの手はこう、若い人の手はこう、子供の手ならこうっていうイメージがあるでしょ」
 ゆるく相づちを打ち先を待つ。
「ビリーの手って、普通に男っぽくてあんまり繊細そうじゃない」
 確かに、間違っても女性には間違えられそうにない、男の手だ。少し荒れた、力強い、兵士の手。
「どちらかといえば、不器用そう」
 それは褒めているのだろうか。それともけなしているのだろうか。
 ビリーには判断がつかなかったが、彼女が至極真面目に、純粋な感想としてそう言ったというのは理解できた。それで、それがどうして“ずるい”に繋がるのか?
「なのに私よりもずっと上手くピアノが弾けるなんて。絶対ずるい」
 そういうことか、と納得する。
 しかしそれはまた、随分な難癖をつけられたものだ。
 上手い、といってもそれは初見の楽譜を最後まで間違えずに弾けるかどうか、という程度であって、糊口を凌げるほどではない。少しの時間と努力があればどうとでもなってしまう差でしかないのだが、どうやらそれでもレベッカには面白くないようだ。
 ビリーはその藍の双眸を細めて吐息のような笑みを漏らす。
「少し練習すれば、すぐにオレより上手くなるさ。けど」
「けど?」
 先ほどとはうって変わって、彼はにやりと好色そうな笑みを浮かべた。
「ピアノよりもきみの歌の方が、オレは好きだな」
 レベッカはその言葉を訝しんだ。ビリーの前で歌ったことがあったかどうか、どうしても思い出せない。
 ビリーは絡め取るように彼女の手を掴んで引き寄せる。予期せぬことにバランスを崩したレベッカを易々と組み敷く。そうして耳朶を舐め、情欲に濡れた声で彼女の耳の中に囁いた。

 さあ、お嬢さん。オレのために歌ってくれ。
 小鳥のさえずりのような、きみのイイ嬌声(こえ)を聞かせてくれ。



- Fin -





memo

 2010.10.09. 拍手お礼として全文掲載。
 ……私がダメな大人っぷりを発揮しているのはいつものことですが、今回はさらに違うベクトルでのダメっぷりを発揮したようです。すみません。これ以外のオチが降ってこなかった。
 ついでにビリーさんも我慢がきかんかった。すみません。この先は適当に想像しておいてください。ちなみにウチの場合、基本的にはビリーさんが終始リードな感じで(笑) 自分好みに仕込んでいくという寸法ですね。
 そんでもって。なんのインターバルなのか、なんて聞くだけ野暮だぜ……。我慢できなかったビリーさんが第二ラウンドに突入ですよ。禁欲生活長かった(自分で処理することはあっても、金を払ってどうのってのはしなさそう。あーでも一夜限りの関係はあるかもしれないなぁ。だって健康なめりけん男性だもの)反動ですねきっと。
 てか私どんなエロオヤジだよ。一般の範囲内でムッツリ系です。反省はしません。