Indian Summer
2008.11.19.
街路の木々はすっかり色付き、中にはいくらか葉を散らし始めた気の早いヤツもいる。季節は晩秋、冬に片足を突っ込んでいるはずなのに、ここ数日はやたらと陽気がいい。カフェのテラス席もこの時期ならば閑散としているはずなのだが、稼働率は大分良さそうだった。かく言うおれたち――おれ、ことビリー・コーエンとレベッカ・チェンバース――もテラス席の稼働率上昇に貢献している。たまにはこういう場所で食事というのも、良いものだ。
屋外ということもあり、おれは周囲を気にすることなく煙草に火を掛ける。食後の一服、というヤツだ。最初の煙を吐き出したところで、レベッカが眉根にしわを寄せておれを……というよりも、咥えた煙草をじっと見ているのに気付いた。
――しまった、今まで気にしてなかったが彼女はコイツが嫌いだったか? 一言くらい断りを入れるべきだったな。
「……ソレって、おいしいの?」
難しい顔をして何を言うのかと思えば、そんなことか。痛烈な批難の言葉が飛んでくるかと思っていたから、思わず口元がゆるんだ。
「まぁ、ほどほどにな。試してみるか?」
うーん……と数秒悩んだ末に、火の付いた煙草に手を伸ばしてきた。意外にも試してみる気になったようだ。だが――
おれはそれを彼女の手から遠ざける。
「やめておけ。お嬢さんにはこっちがお似合いだ」
こんなものの味は知らない方がいいし、どうせなら彼女には一生知って欲しくない。
煙草を渡す代わりに、おれはポケットから小さな袋を取り出した。その小袋にはオレンジと黄色のカボチャオバケがモザイクよろしく無数にプリントされている。中身はマシュマロのはずだった。
半ば伸びたまま行き場をなくしていた彼女の手にそれを持たせる。
「こいつをやるから、悪戯はするな」
何を渡されたのか理解した彼女の頬が、小さな子供のようにふくれた。
「もうっ、ばかにして!」
- Fin -