JUNK : 10

PIANO MAN

2008.02.29.

「良ければ弾いてみないか、若いの」
 カウンター越しに掛けられた声に、緩慢な動作で彼は振り向く。グラスを磨いていたバーテンダーは青年の視線を捉えて促すような笑みを向けた。
「今日は来ないらしくてね」
「……昨日だって弾く奴は来なかったじゃないか」
 そうだったかな、とバーテンダーはうそぶいた。本当はもう何年もそれを弾く者はいない。最後にそこに座っていたのは初老の男だったが、ある日ふつりと来なくなってしまった。借金取りに追われて逃げたのだとか、他の店で弾いていたとか、あるいは川で浮いていたらしいとか様々な噂が囁かれたが、いまだに真相は闇の中だ。
 最近この街に流れてきた青年は、無論そんなことは知らない。彼はピアノの上蓋に付いた丸いグラスの跡を指先で撫でた。
「無理にとは言わないが、弾けるなら一曲頼めないか」
 バーテンダーはカウンターの上にウィスキーの入ったグラスを置いた。青年が今手にしているのと同じもの。初めて店に来て以来頼み続けているもの。
 ――そいつがあんたのおごりなら。
 そう言って青年は空のグラスを返し、新しいグラスを受け取る。古びたピアノの前に座ると彼はバーテンダーに尋ねた。
「リクエストは?」



- Fin -





memo

 “ビリーとピアノ・バー”というネタでお送りしました。まぁ、コレだとピアノ・バーというよりは「ピアノが置いてあるバー」というのが正しいんでしょうけども、気にしない気にしない(笑) ピアノの形は、グランドよりもアップライトの方が、ビリーが行ける範囲にあるバーにある物としては らしい かなぁと思うけども、ま、どっちでもいいか。
 でもって、名前が出てこないのは仕様です。だって、死人時代の話のつもりだからさー。
 そうそう、BGMはビリー・ジョエルのピアノマンでお願いします。何故って書く切っ掛けがその曲だったからさ。となると、バーテンダーがリクエストした曲は「思い出」とかいうのになるのね。……でもビリー、歌ってはくれなさそうだなぁ。つーかあのセクスィーボイスで歌われたらタマランわぁー。でもマーヴェリック(@TOPGUN)並の歌唱力でもモアラブさんなら許せそうな気がする(笑) で、バーに居る全員で合唱始めたらいいさ。
 あ、ウィスキーはですね、トワイス・アップでお願いします。水割りでも、ロックでもなく!