Billy & Rebecca
2004.05.26.
男の荒れた指先が、彼女の首筋にかかる銀鎖に触れた。鎖骨を愛撫するついでに一インチ程撫でてからその銀鎖を摘みあげる。どこにでも売っている代物に見えるが、何故かひどく懐かしいもののようにも感じる。
「これは?」
「形見よ」
彼女は素っ気なく答える。敢えて誰の物なのかは言わなかった。言わずともこの男なら分かるはずだから。
しかし予想に反して男の目が細まる。その深い藍色の双眸に浮かぶ表情は、まるで嫉妬と同じだった。一体何に? 相変わらず、男が何を考えているのか全く読めない。
彼は銀鎖を服の下から引きずり出す。かなり長い。女性が身に付ける物としては、それはあまりにも長すぎる。やがて銀鎖の全貌が明らかになった。服の下から現れた楕円形のプレートが一枚、誇らしげに輝いている。
あぁ……。痛みと郷愁にも似た色が男の瞳に浮かんだ。溜息に言葉をのせる。
「形見、ね」
米海兵隊の認識票。かつて彼が身に付けていたもの。
- Fin -